「大保原合戦」の唄

(1番)大原野

頃は正平秋の空            筑紫の野辺に風あれて
うつや太鼓の轟に         戦塵高く迷うかな
敵は六万 我四万          衆寡如何でか敵せんと
いうことなかれ長くも     我に錦の御旗あり
汝乱臣賊子ばら           いでや屠(ほう)らん丈夫(ますらお)の
すつる命は何かある       惜しきは千代の名なるかな
暁かけて全軍の           旗をもつらす幾十たび
さしも烈しき決戦の       勝敗ついにさだまりぬ
正義の刃うけかねて       宝満山の根拠地に
走りし敵の大軍は         ふたたび立たずなりにけり
ああ星うつる六百年       高きいさをはとこしえに
記念の碑にぞ刻まるる     むかしながらの大原野

(2番)出陣

連山高く聳えたり         大河遥かに流れたり
見よ此の山と此の河と     大軍ここにたむろせり
時は正平十四年           秋7月の半ば頃
大宰府さして攻寄する     官軍四万六千騎
日向大隈肥後薩摩         筑後の諸将統べ給う
征西の宮いただきて       菊池武光指揮をとる
大友少弐之を聞き         筑前豊前豊後の兵
六満余騎を従えて         筑後川にぞ打向う
高良石垣柳坂             これ官軍のよるところ
木の間になびく白旗の     威光ひとしく輝けり
川をへだつる森蔭は       これ賊兵の拠る所
聞ゆる駒のいななきに     軍勢いたく振いたり
連山高く聳えたり         大河遥かに流れたり
来るは雨か夜嵐か         ああ静かなる此の平野

(3番)決戦

筑紫次郎の名にし負う     大河流れて三十里
ここ大社の影うつす       淵は深くもよどむ哉
過ぐる日菊池武光は       五千騎余にて出で向い
浅瀬もとめて挑みしが     敵は応ぜず黙しけり
今日は必ず果たさんと     一万余騎を従えて
かなたこなたに兵を伏せ   敵に戦いいどみたり
対岸の杜霧こめて         はや今日の日も暮れかかる
今宵夜攻の魁に           よきもの見せん受けて見よ
いざと射放つ鏑矢の       矢鳴遥かに立消えて
河水青く湛えつつ         あたり静かに応えなし
こはいぶかしと鞭をあて   流乱して攻め上る
岸には敵の影もなく       蟲の声のみ湧きにけり

(4番)渡河

雲の影なき大空に         秋の日高く照らすとき
耳納の山の麓より         進軍の貝鳴り渡る
遥かの野路を静々と       練り来る長き隊列の
大旗小旗ゆらめきて       兜の星は輝きぬ
全軍すでにひしひしと     川を渡りてかけ向い
気ははや敵を呑みながら   皆それぞれの部署につく
鰺坂庄の先陣も           川のほとりの本営も
覚悟は同じ丈夫が         背水の陣勇ましや
敵はと見れば大原の       沼多き地を前にして
花立山の要害に           本陣の旗流すなり

(5番)対陣

明けては暮るる秋の日の   早や幾日か過ぎつらん
立てつらねたる敵の旗     算へて今日も暮しけり
見よ十万の大軍は         ここ大原に対陣の
鳴をひそめてさながらに   引きしぼりたる梓弓
戦機静かに熟しつつ       汗馬しきりにいななくを
脾肉の嘆やるせなく       たたきも見たり太刀の束
七世弓を引くまじと       誓いし言葉今いづこ
仰げ錦のおん旗の         日月ここに輝くを
罵りばがら眺めども       敵は動かずひたすらに
我を陣地にひきよせて     迎えうたんとはかりけり
敵動かずば破らんと       智謀に富める武光は
はや決戦の策略を         勇める胸にたたみけり

(6番)決戦

筑紫の秋の夜は更けて     銀河静かにかかる時
駒を立てたる武光は       敵を一挙に衝かんとす
すぐりし手勢旗を伏せ     川を渡りて襲い入る
敵の陣屋のここかしこ     人馬にわかにどよむなり
この時全軍沼を越え       鬨をあげつつ攻め向う
暁闇をうち破る           鼓のひびき貝の音
一陣二陣斬り結ぶ         稲妻のごと火花散る
叱咤の声に大原の         このすさまじき夜は明けぬ
駒の蹄の迫る時           槍の穂先に太刀先に
から紅の霧立ちて         照る日の影も暗かりき
鎬を削る敵味方           合いては離れはなれては
駆け合わせつつ乱れつつ   もらす旗の幾流れ
深入りしたる武光が       宗徒(むねと)の勢はつき果てて
宮を守れる新田さえ       一門すべて討たれたり
これを眺めていち早く     勢い得たる敵兵は
雨や霰と射立てつつ       はや逆攻めに寄せて来ぬ
乱るる征矢の矢面に       進ませ給う大将の
おん鎧には三筋まで       危き矢こそ立ちにけり
かくと見るよりおん供の   月卿(げっけい)雲客(うんかく)悉く
宮の御楯とふみ止まり     剣かざしてたおれたり
武光怒りの眼裂け         狂える獅子の雄たけびに
砕けし兜ふりすてて       嵐の如く斬り込みぬ
斬りまくられてたじろぐを 今ぞとかかる進撃に
花立山の敵陣は           潮の如くくずれけり

(作詞:文学士 佐々木信香)

菊池武光 大保原の戦い