香月作カット香櫨亭
香櫨亭通信 第4号
 1990年
(平成2年)
11月13日発行
香月筆櫨並木の写生

ことしの櫨並木紅葉情報 第3号

まだ緑葉が優勢ですが、かなり紅葉が目だってきました。そして、その対照が実に見事です。真っ赤っ赤のときより好き・・・とおっしゃってた画家がありましたね。
 紅葉の見ごろは下旬に入ってからでしょうか。・永勝寺のカエデ紅葉、イチョウ黄葉もご鑑賞ください。

 左の絵は、櫨並木の写生などというものじゃなくて、まあ、イメージ絵のつもりですが、ヘタですなあ。・・・

櫨とミカン。交代また交代・・・

佐賀県三養基郡中原町では、三十年前、櫨がいっせいに伐られてミカンが植えられました。ところが、この果樹がいまバタバタと伐られてしまい、なんと今度は櫨が復活して、若木の葉が風にそよいでいるのであります。・・・

これはいったい、どうしたことかと、おっしゃいますな。柑橘類に対する好みの変化に加え、輸入品による、いわゆる外圧も手伝って不振にあえぐ国内産ミカンに比べ、日本独自、ジャパン・ワックスとして昔から海外諸国でも需要が高かった安定商品の木蝋が、当然のこととして見直されているわけなのです。

戦後急成長、酸いも甘いもひっくるめて、いたるところに植えまくったミカン産業の根の浅さに比べての、櫨栽培の底力がいま見えてきたというところでしょうか。
 福岡県八女地方でも、櫨の木が伐り倒された後にお茶の木が植えられて、現在の盛況なのです。・・ま、お茶がミカンの二の舞を演ずる心配はありますまいが。

資料紹介 

櫨と木蝋(櫨からとれる木蝋)

前号で紹介した飯塚一雄さんの書きものに、筆者(香櫨亭亭主)が幾らか書き足し、いかにも<こんにち的>な話題を紹介いたしましょう。

櫨の実からとれる木蝋の利用

下のように、種々の製品組成品として利用されています。

木蝋の用途

  • 化粧品)・・・ポマード・クリーム・チック・口紅・マユ墨
  • 医薬品)・・・軟膏・硬膏・座薬・乳剤・外科包帯剤
  • 光沢仕上剤)・・家具・皮革・自動車・紙・菓子・繊維・ロープ
  • 文具)・・・鉛筆・カーボン紙・クレヨン・クレパス
  • 研磨剤)・・・ステンレス・金属
  • 油滑剤・保護剤)・グリース・雛形剤・レコード・塗料
  • その他)和ローソク・蝋けつ染・模型・彫刻・剥離剤・防湿剤

主なユーザー

  • 資生堂・鐘紡・柳家・コーセー・ポーラ・マンダム・メナード
  • 武田薬品・大塚製薬・大正製薬・持田製薬・佐藤製薬
  • リンレイ・コロンブス・YAMAHA・山崎パン・ジョンソン
  • 三菱鉛筆・トンボ鉛筆・ゼネラル・サクラクレパス
  • 新家工業・木工加工メーカー等

(福岡県三池郡高田町・荒木製蝋合資会社資料)

薬害の無い安全な天然油脂であることから、化粧品や医薬品や食品のの中に・・・
粘靭性にすぐれていることから、クレヨンや口紅の中に・・・
つやがあり伸びがいいことから、家具や皮革の光沢仕上剤の中に・・・
などなど。・・・

ホントか?と聞き返すような話

蝋で怖いものは、漆(うるし)かぶれの一種である「櫨負け」。・・・とくに女性は弱い。柳坂櫨並木保存運動展開での、障害の一つがこれでありました。
なのに、女性しか使わない筈の口紅の中に、櫨の木からとれる木蝋が混じっているのですからね。・・・
チュウインガムの中にも、歯離れがいいように木蝋が混ぜてあるのです。
前号で紹介した飯塚一雄氏が書かれたものによりますと、高級パンにも使われているんです。焼き上げるときに木蝋入りの仕上げ剤を塗るんだそうです。これで、上品な「照り」が出る、とか。
つまり、わたしたちは、知らず知らずのうちに木蝋を食べているんですね。

ワープロにも

 プリンタの熱転写リボンでも、木蝋の適性が注目されているんだそうです。

木蝋の組成・成分

 これについては次号で触れてみたいと思います。

白日別(しらひわけ)とは

よく知られている青木繁の歌・・・

「わが国は筑紫の国や白日別
                     母います国櫨多き国」

の中のことばの意味をよく尋ねられますので、ご紹介しておきましょうか。
「古事記」上巻に、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)の男女二神による国生みの話が書いてありますが、その中に、
矛(ほこ)からしたたる塩が累積して国が順々に創生されてゆき、四番目に出来たのが筑紫嶋(つくしのしま)である。・・・
という記述があるのです。それが九州島なのです。

その筑紫嶋には四つの面(しおも)があり、まず白日別、そして豊日別(とよひわけ)、建日向豊久士比泥別(たけひむかひとよくじひねわけ)、建日別とされ、のちにそれらを筑紫国、豊国、肥国、熊曽国と呼ぶようになったのです。

つまり青木繁は、わが国は筑紫の国や・・・と故郷に呼びかけて、それに白日別という古名を添え、一種のリフレインでリズムをつけたのですね。

それにしても、白日別とはいい命名ですね。陽光がさんさんとそそぐ明るい国、というイメージが浮かんでくるじゃありませんか。
古代の神話にモチーフを得て、「わだつみのいろこの宮」などの名作を描いた青木繁らしいことば使いだと思いますね。

彼は短歌もよく詠んだ人で、「村雨集」という歌集を編んでいますが、「わが国は・・・」の歌もこの中に収められているのです。これをつくった時期は、文展出品の絵が二回とも落選して再上京の夢も破れたうえ、家族とも折合いが悪く、久留米を去って(家出して)、放浪生活を送っていた明治四十一年〜四十三年の間に佐賀県あたりで・・・と考えられています。

櫨並木を残した歌

佐賀と久留米は近いのですが、家族とは不幸な別れかたをし、いろんな人に不義理をして各地を転々、病苦、生活苦にさいなまれていた彼にとって、帰るに帰れない家郷は、むしろ異郷のように遠く感じられたのかもしれません。
 「櫨」という文字は「はじ」とも読まれてきました。そこでわたしは、青木繁の「櫨多き国」は、「恥多き国」の言い換えじゃなかったのか、などと考えてみたことがあるのです。

明治四十四年、二十八才で死んだ彼が遺した遺書は、哀切感に満ち、しかも格調高い名文として、人に知られています。その一節・・・

『焼き残りたる骨灰はついでの節、高良山の奥のケシケシ山の松樹の根に埋めてくだされたく、小生は彼の山のさみしき頂より思い出多き筑紫平野を眺めて、この世の怨恨と憤懣と呪詛とを捨てて永遠の平安なる眠りに就くべく候・・・』

 この遺書にこころを動かされ、「わが国は・・・」の短歌を愛誦してきた人たちが中心になって、没後三十七年の昭和二十三年、ケシケシ山(兜山)山頂に、この歌を刻んだ自然石の碑が建立されたのです。わたくしも地元青年団員の一人として奉仕作業に参加しました。
 以来毎年、三月下旬に営まれる碑前のケシケシ祭りに集う人たちの中から声がおこって、青木繁がかってそこをくぐってこの山頂をめざしたであろう柳坂曽根の櫨並木の保存・福岡県天然記念物指定陳情の動きが始まったのでした。

柳坂曽根の櫨並木は、悲運の天才画家青木繁が残した、と言ってもいいのではないでしょうか。

しらさぎのカット

櫨の紅葉と白サギ

昔、晩秋の筑紫路を歩いた旅人が、燃えるような櫨の紅葉と、その間をゆったりと飛翔している白サギとの、その対照の見事さを書き残しています。・・・
白日別の国の豊かな自然を、後世にも伝えましょう。

鐘楼

永勝寺にて
A
   大杉の話

・・・一昨年五月十五日に、永勝寺梵鐘再建記念法要が行われた。その翌日から、ご住職のお許しを得て、朝六時の鐘撞きを妻とともにさせていただいている。だが、ときどきサボるので、お寺さまもさぞやご迷惑。・・・

十一月十日・土曜・晴天

きのうの櫨並木でのテレビ生中継(紅葉ピークが近い櫨と二十三日の耳納北麓自然市の紹介)では、本番の午前十時ごろになって本格降りになった雨で、出演者一同も協力者たちもテレビ局の人たちも、シルシイめにあったが、風は弱かったのでさして濡れることはなかった。
 ところが今朝の寺へ上ってみると、境内のあたり一面に杉の枝が落ちている。枯葉枝だけではなくて、生葉混じりの枝もある。暁闇の中でそれらを踏む足にふかふかとした感触が伝わる。

杉落葉を拾う

かなり高い所にある寺だし、三百年の樹齢をもつ大杉はもっと高いのだし、風当たりが強かったのは当然。だから、枯葉がいっせいに落ちてきたわけだ。
 これは有難い、とばかり、鐘撞きと読経を済ましたあと、妻と、それぞれの両手で抱えられるだけ拾う。

 

我が家の五右衛門風呂の焚き付け材にはこの枯杉葉が最高なのである。丸太や割木を組んだ下に枯小枝を風通しよく置き、彼杉葉を潜らせて、マッチの火を移す。
 杉の葉のあの複雑な凹凸(無数の針をらせん状に並べた、入り組んだ面)が、ふところ深く火を引き込んで、薪への火移りを助けるのである。これに比べたら、広葉樹のペラペラした葉っぱなど、頼りないことおびただしい。ましてや新聞紙など論外、というもの。・・・

 

それに、杉の葉を燃やして残る灰は、実に美しい。神々しいまでの白さを見せる。

大杉残した上野無一さん

「ここの大杉のことについちゃ、忘れちゃならん人がおらっしゃるとたい」
 杉の葉を拾いながら、わたしは妻に語りかけた。
「知っとるよ。前にもあたしに言うて聞かしてくれたじゃんね。無一さんのことじゃろもん」
 このかた、故・上野無一さんがおられなかったらば、永勝寺の大杉群は、三十五年ほど前に伐られていた。大雨で大損害を受けたこの寺の庫裏を修復するための費用の一部にと、村役連中協議のうえで大杉が売られ、巨幹にノコが当てられた、まさに間一髪のときに、上野さんが駆けつけ、私財を投じて(借金であった)業者の入札金額を抜き、買い取られたのである。そしてすぐ、大杉群は寺に寄贈され、元に戻ったのだ。
 この人のことは、また書く。・・・

香櫨亭営業ご案内

無農薬コーヒー・自家炭火焙煎・・・300円
だご汁と水車搗きご飯・・・・・・・・・・800円
水車搗き米・1キロ・・・・・・・・・・・・・600円

 ぜんざい・・・・・・・・・・・・・350円
 だご汁・・・・・・・・・・・・・・・500円
      その他

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発行人:香月徳男 月3回刊・1部100円(郵料別)

〒839−11 久留米市山本町豊田1582−2 
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