水車小屋のカット香櫨亭通信

第14号

平成8年
(1996)5月26日発行


詩歌句亭という名は、どう・・・と伊藤先生

香櫨亭詩歌句亭主殿 美味しい珈琲と水をいただき   心浄くなりました 平成八年五月二六日          伊藤一彦

これは、今朝七時すこし前、久留米市在住の歌人で、わたしの短歌勉強の師である大津留敬先生とともに、わが香櫨亭にご来訪あった、宮崎市在住の高名な歌人・伊藤一彦先生が、わが店のご芳名録に、ご記帳あった言葉である。
 (先日来、両先生とわたしで、早朝の耳納スカイラインを大津留先生の車でドライブする計画ができていた)

さて、
昨夕の「スパリゾートホテル久留米」での、伊藤先生を囲む夕食会の席上で、伊藤先生は、あいさつのあとの卓話で、つぎのような意味のことをおっしゃった。
「いつか、どういうかたちでか、歌集を出す、というこころ構えで、作歌活動をするのがいい。すると、ひとことに偏らず、いろいろなテーマでの歌を詠むことの大事さが分かってくる。歌集のタイトルもはやくから考えておくがいいのです」

これは、たいそうに有益なアドバイスで、一同、深く感じるところがあったようだ。
 それから、何人もの人が、それぞれの思いでもって、伊藤先生に向かって発言していた。

わたしも、次のような意味になることを申し上げた。
「わたくしは、短歌だけでなく、俳句も、散文詩も一緒にしたもので編みたいと思っているのですが・・」
 伊藤先生は、「それでもいいと思いますよ。プロの評価は低いと思いますが・・」

わたしはまた、こんなことを申し上げた。
「わたくしの店に立ち寄るハイキングなどの人たちのために、植物の本をいろいろ置いているんですが、それぞれの草木にちなむ短歌や俳句によるアンソロジーも添えておきます」

夕食会に先立ち、大津留先生の案内で、高良山と兜山(青木繁の碑)経由で山から下りられ、香櫨亭にも立ち寄られていた。
(わたしはすでに夕食会に出向いていた)

伊藤先生は、「あ、あの玄関先の豆図書館ですね。水車も楽しかった。久留米のいい思い出になります」と微笑されて、
「<詩>と短歌の<歌>と俳句の<句>とをむすんで詩歌句亭というのはどうです。東京にそんなのがありますよ」
なるほど・・・

わたしは、視界がスッと開ける思いがした。

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現代短歌・南の会主宰の伊藤一彦先生は、今年一月、読売文学賞を受賞された。

「目加田先生のようなくらい歌はキライです」なんてナマイキなことを伊藤先生にまで言った。
しばらくして、わたしは伊藤先生のそばに行き、持参していた和紙綴りの短歌勉強ノート『短歌を味ふ』平成6年初夏〜の中から、平成六年四月に九十歳で死去された九大教授で中国文学の権威だった目加田誠氏の晩年の歌集についての、伊藤先生のエッセー(西日本新聞・平成六・六・七)の抜き書きをチラチラ見ながら、
「わたくしは、目加田先生の、このような、くらい歌は好きになれないのですけれども・・」うんぬんのナマイキなことをいってしまった。(ノートには、目加田・伊藤両先生の顔写真の切抜きも貼りつけていた。)

伊藤先生は、わたしのそのノートをチラと見られ、「あ、こりゃ光栄ですな」
とおっしゃったあと、「明日の公演で、曾宮一念の明るい調子の歌を紹介することにしているんですよ」
と言われたことであった。

きょう午後一時からの、第三十二回久留米短歌大会での伊藤先生の演題は「歌のこころ」。

その中で先生は、ご自分を含めて八人の歌人の歌を紹介されたが、最初に、曾宮一念の歌をとりあげられたのである。
曾宮一念という人は、百一歳?まで生きた高名な画家だが、七十七歳のとき失明されたという。それで、絵は描けなくなったけれど、短歌に精進され、歌集まで編まれたというからから凄い。プロの歌人ではなかった人だ。

しかも、その歌が、老と病の苦しみを悔やむ調子のものではないのがいい。

講演資料から抜き出したその歌を下に紹介する。

曾宮一念『雲をよぶ』

役立たぬ俺に似たれど砂山は日照りに耐えて飲食いはせじ  
相聞の歌書きおれば腰曲げておらのことかと婆は喜ぶ
会う人の身なり善悪目鼻だち見えぬ眼は心明るし
髪の毛は胡麻塩ながら生え残り中身の味噌は黴て使えず
幼き夜夢におびえて眠りしが老いたる夢もなお安からず
雲をよび乗りて空駆け語り合いこねてまるめて食べてしまわん
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香櫨亭での伊藤一彦先生・大津留敬連合文化会短歌部長 香櫨亭水車前にて 5月25日スパリゾートホテル久留米での夕食会にて
香櫨亭にて 左が伊藤一彦先生
右は大津留敬先生(久留米連合文化会短歌部長)
香櫨亭水車前にて 夕食会にて(5月25日夜)
 「スパリゾートホテル久留米」にて
                                                 

第三十二回久留米短歌大会  入賞者

福岡県知事賞・久留米連合文化会賞 (伊藤一彦選)

特選 446

真夜中のコンビニの灯に若者ら 蛾のように来て羽搏き持たず               筑後市 平井達志

久留米市長賞 (桑原廉靖選)

特選 316

人生に疲れてはならぬてのひらに      銅貨並べて冬葱を買う             久留米市 中川千恵子
    
    

福岡県教育委員会賞 (山埜井喜美枝選)

特選 250

京ならぬ筑紫の国のお大根 とろとろ炊けてとろりと弥生昏れ落つ               柳川市 吉川千枝
    
    

久留米市教育委員会賞 (青木昭子選)

特選 265

山清水ここだ湛ふる心字池 鯉はこころの縁にあぎとふ               筑後市 宮川敦子
    
    

久留米文化推進協議会賞 (大津留敬選)

特選 258

姑ありて息も孫もいて何故に 征きて還らぬ夫の恋しき              福岡市 古川フミ子
    
    

西日本新聞社賞

互選第一位 六四点 599

さらさらと思い出刻む砂時計      逆さにしても時は戻らず            久留米大学附設中学三年 島垣智成
    
    

西日本新聞社賞

互選第二位 三三点 600

背後から僕を襲った花吹雪       御笠の川に吸い込まれ行く            久留米大学附設中学三年 白土玄
    
 

伊藤一彦選 入選

桑原廉靖選 入選

  75 佐々木康雄 117 梅見迪子   263 神崎クニ子 419 中島男三  460 千々岩よしの 475 野田光介 574 吉田久美子 581 竹森祐彦   603 渡辺亮介
189 馬田ノブ子   159 重松房子  284 田中小枝  224 西田増子    38 吉田とし 302 野中ヨシ子 234 鳥越政則    185 岡口茂子 603 渡辺亮介

山埜井喜美枝選 入選

青木昭子選 入選

249林田逸子   476野田光介   328沢田禮子
185岡口茂子   431長野瑞子   111石橋令子
240奈良崎俊子  117梅見迪子   599島垣智成
249林田逸子   431長野瑞子   436佐々木幾代
460千々岩よしの   55櫻井ツ子     410内山和子
599島垣智成   417大谷静      397野中小百合

大津留敬選 入選

484近藤千鶴子     村井斐    283松木恒子
330川南誠一郎   137河口浩    183池田清子
294今林太賀子   532西尾昭四郎  526井口容子

互選 入選

三位 20 鬼丸和枝 四位 46大江俊彦 五位 153鳥越芳子 六位 52 吉田益夫
 七位 224西田増子 八位 22西尾朋江 九位 250吉川千枝 十位 189馬田ノブ子

ことしは投稿のときから、自信がなかった。
わたしの二首の歌は、出詠者互選で
「久留米市に種のごとくに草葺きの家が残れり三戸となりて」が五点。もう一首はゼロ。

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