府中 与市(御井)

今から二百五十年ばっかり昔のこつ、府中にそりゃ走っとの早ようして、晒布一反分の余りば地土(デデ)につかんごつ、ずーっと引っ張って走り、とてん評判者の与市ち言うとが居ったげな。
仕事も何ーにんせんな毎日ブラブラして暮しよったけん、誰でん不思議がっとったげなりゃ、あっ時福岡藩から久留米藩さん「この者、当福岡藩内にてあまた盗みを働き、去る夜、盗みの現場を取り押さえたり。名を尋(タダ)すに貴久留米藩内府中に住い居る与市と申す故送り届ける故、処分されたし」ち与市ば引渡さっしゃったげな。
そっで与市ぁおしおきのさらし首になったげなたい。
与市ぁ走っとん早かったつば良かこつにして晩な遅ーまぢ近所ん者と遊うで、皆が寝てしもうちから韋駄天走りして福岡さね行て盗うぢ、又チュウヤクリクリ久留米さん走って戻って来て朝んなっと知らんふりして起って遊びょったもんぢゃけ、近所ん者な、盗人てんなんてん、いっちょん思わぢゃったつげな。

初手物語198


訳)

今から二百五十年ばかり昔のこと、府中にそれは走るのが早くて、晒布一反分の余りを地面につかないように、ずーっと引っ張って走ることで評判だった与市と言う男がいたそうだ。
仕事も何もしないで、毎日ブラブラして暮していたので、だれもが不思議に思っていたのだけれど、ある時、福岡藩から久留米藩へ「この者、当福岡藩内にてたくさんの盗みを働き、先日夜、盗みの現場を取り押さえ、問い詰めると、そちらの久留米藩内、府中に住む与市という者を送り届けるので、処分してほしい」と与市を引渡したそうだ。
それで与市はお仕置きをされてさらし首になったそうだ。
与市は走るのが早いのをいいことに、夜遅くまで近所の者と遊び、皆が寝てしまってから走って福岡へ行き、盗みをしてから、夜の内に久留米に走って戻り、朝になると知らんふりして起きて遊んでいたから、近所の者は、盗人だったなんて、ちっとも思わなかったそうだ。

注)府中(御井町)⇔福岡天神は直線距離で40km弱だから、往復80kmほど・・・・・。

高良山茶屋「望郷亭」
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