お仙が塚(御井)

高良山座主麟圭の家来に錦江ち言う山侍が居った。
麟圭の片腕ち言わるるやり手で高良山の麓に屋敷をもって手下もうんと居ったが気の短うして皆からはエズがられとった。
ある日この屋敷にお仙ち言う娘が行儀見習ち言うこつで女中に来た。お仙な器量も良かが、気立もやさしか上、働き者ぢゃったけ、いっ時すっと下男からは勿論、同僚の女中達からも可愛がられよった。
夏の焼きつくごつァるあつか或日お仙なし錦江ん隣部屋ん掃除ばしよった。と思いもかけん夕立のザーッと来たけ、急いで縁からそこん庭下駄つっかけち洗濯物ばぬらさんごつ取込み走った。
干物ば取来うで来た時、意地悪の茶坊主が庭下駄ば見つけ「はいとる下駄は、どなたのもんか知っとるか。こん無礼もんが」ち大声あげちおごった。そん声で錦柄が出て来て茶坊主から有るこつ無かこつば聞いて、カーッとなって「そげんこん下駄がはきたかなら一生はいとくごつしてくるる」ち、ムゾなげ泣いてことわり言うお仙ばひっつかまえち、ぬいどった下駄ばはかせち、足の上から五寸釘ば打込うだ。
そん悲鳴に女中も、下男も飛び出して来たもんの、こん様ばみて目ばつぶった。「おまい達も殿様ん物ば勝手に使うとこげんすっぞ」ち坊主がおろだ。お仙の足ぁ赤か血で染って、倒れち起りきらん、顔は真青。いっとき肩で大きな息ばしよったお仙がスッと立ったかち思うと、よろめきながら茶坊主と錦江が話しよる座敷に血の下駄んまま上がって行て「あんまりしたこつ。この怨は七代まで祟って思い知らすぞ」ち鬼のごたる形相でにらみつけた、
茶坊主も錦江ももうただガタガタふるうばっかり。口もさけ、目もさけたち思わるるその形相のままお仙な身ばひるがえして井戸に飛び込うだ。
引上げられた死体ば受け取った女御親は「あんまり、あんまりしたこつ。お仙本に痛かっつろ、くやしかっつろ。こん怨ぁ七代どころか錦江の家んつぶるるまで祟り殺して晴せ。おまいが力で出来んあら俺も加セする。どうか祟るしるしば見せちくれ、こんいり豆に花ばさかせちしるしば見せろ」ち泣(ネー)てお供えに上げたイリ豆ば外さん撒いた。そりから不思議なこつの次々に起った。

錦江の子供は具合が悪くなり、茶坊主が生れ在所にゃ悪か病気のはやって、お仙が塚にまいたイリ豆からは、芽ん出て花ん咲いた。
ムゴかこつされた怨、執念ちゃ恐ろしかもんで今でん錦江ん家にゃしゃっち気狂(キチゲ)ん生るるし、悪か病気や一番初めに茶坊主の在所に流行るち。

媼・ふるさと御井一、17


訳)

高良山座主、麟圭の家来に錦江という山侍がいました。 麟圭の片腕得と言われるやり手で、高良山の麓に屋敷を持って手下もたくさんいたが気が短いので皆からは怖がられていた。
ある日、この屋敷にお仙という娘が行儀見習に女中として働きにきた。お仙は器量が良いだけでなくて気立てのやさしい働き者だったので、しばらくすると下男や同僚の女中達からも可愛がられていた。

夏の焼け付くような暑い日のこと、お仙は錦江の隣の部屋の掃除をしていたとき、思いがけない夕立がザーッと来たので、急いで縁から、そこにあった庭下駄をつっかけて洗濯物を取込みに走った

干し物を取り込んで来たとき、意地悪な茶坊主が庭下駄を見つけて「おまえの履いている下駄はどなたの物か知っているのか。この無礼者が」と大声を上げて怒った。その声で錦江が出て来て、茶坊主からあること無いことを聞くと、カーッとなって「そんなにこの下駄がはきたいのなら、一生履いておくようにしてやる」と、かわいそうに泣きながらことわりを言うお仙をひっ捕まえて、脱いでいた下駄を履かせ、足の上から五寸釘を打ち込んだ。

その悲鳴に女中も下男も飛び出してきたものの、この様子を見て目をつむった。「おまえ達も殿様の物を勝手に使うとこんなになるぞ」と坊主が叫んだ。

お仙の足は赤い血で染まり、倒れて起きられない。顔は真っ青。しばらく肩で大きな息をしたお仙はスッと立上がると、よろめきながら茶坊主と錦江が反している座敷に血の下駄のまま上がっていき「あんまりしたこと。この怨みは七代まで祟って思い知らせてやる」と鬼のような形相でにらみつけた。

茶坊主も錦江もただガタガタ震えるばかり。口も裂け、目も裂けたように見えるその形相で、お仙は身をひるがえして井戸に飛び込んだ。

引上げられた死体を受け取った女親は「あんまり、あんまりしたこと。、お仙本当に痛かっただろう、くやしかったろう。この怨みは七代どころか錦江の家のつぶれるまで祟り殺して晴らせ。おまえの力で出来ないなら俺も加勢する。どうか祟るしるしを見せてくれ。このイリ豆に花を咲かせて見せろ」と泣いて、お供えに上げたイリ豆を外に撒いた.

それから不思議なことが次々に起ったt。錦江の子供の具合が悪くなったり、茶坊主の生まれた在所には悪い病気が流行り、お仙の塚に撒いたイリ豆からは芽が出て花が咲いた。

ひどい仕打ちを受けた怨み、執念とは恐ろしい物で今でも錦江の家には不幸なことがおこるし、悪い病気は一番最初に茶坊主の在所に流行るそうです。

高良山茶屋「望郷亭」
kurumenmon.com