耳のある白蛇(御井)

今から三百年ばっかり前の話。高良山座主の寂源さんがいつもんごつ中の谷ば通りごさったら、四、五寸ぐれん白蛇が前ん方ばチョロチョロして行く。
ジーッとしゃごうで見っと頭に耳のついとる。
こりゃ珍しい蛇ぢゃ仏の使いかも知れん。万一鳥獣にとられたら大変ち思うて衣の袖に入れて寺さね持って帰らしゃった。寺の庭なら大丈夫、
ところが一ッ時したら今まぢとても良かったお天気が黒う曇ってきたかち思う間ものう天の底ん抜けたごつ大振りの雨になって風まで出て来た。ひどなった雨風も小半刻ばかりさーっと止んで晴れち来た。
白蛇はどげんしとるかち庭ん方ば見っと、何と満水になった水盤の中から沸き上がる雲に乗って天さね昇って行きよっとこじゃった、
ち言う話。

篠原原稿

  


訳)

  

今から三百年ばっかり前の話。高良山座主の寂源さんが、いつものように中の谷を通っておられたら、4,5寸ぐらいの白蛇がチョロチョロして行く。
じーっとしゃがんで見ると、頭に耳がついている。これは珍しい蛇で、仏の使いかもしれない。
もし鳥獣に捕まったら大変だと思って、衣の袖にいれて寺に持って帰られた。
寺の庭なら大丈夫。・・・ところが一つ時したら、今まではとても良かった天気が、黒く曇ってきたと思うと、間もなく天が底が抜けたように大降りの雨になり、風まで出て来た。
ひどかった雨風も小半刻ばかりで、さーっと止んで晴れてきた。
白蛇はどうしているかと庭の方を見ると、何と満水になった水盤の中から沸き上がる雲に乗って、天へ登って行くところだった。
という話。

注1)季節で変わるが日の出(明け六つ)⇔日没(暮れ六つ)の間を6等分したのが1刻(≒2時間)
だから半刻≒約1時間。

注2)水盤:現代では主に盛り花や盆栽・盆景等に使用される底の浅い楕円形や長方形が多い、平らな陶製や金属製の花器をさす。
お寺などでは睡蓮を入れたのも見受けられて、昔はもう少し広義で使用されたらしい。

高良山茶屋「望郷亭」
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