座主麟圭の幽霊(御井高良山)

今から四百年ばっかり前、久留米の殿様小早川秀包にあんまり盾つくもんぢゃけ、邪魔者は殺せち言うこつで、高良山の座主麟圭やだまし討ちされたが、よっぽど無念かったつぢゃろ殺された麟圭の墓から鬼火の出るちゅう噂ん立った。
そん頃三井寺ん和尚さんな墓の上にはえとった松の木の枯れたもんぢゃけ、切り倒させらしゃった。
ところがその晩、山侍の久保田の嫁御が留守番しとっと、表で人声んするけ戸ば開けたら、赤か法衣ば着た坊さんが立っとった。
「何故松ば切り倒したか、ありゃ大事か松ぢゃったつに。不届千万」ちとてんやかましゅう言う。嫁御は、主人が留守ち思うて狐か狸の悪さしよっとぢゃろち戸ばピシャッちと閉めち、狭間んからじっと見たら、坊さんの姿は消えち、墓とこい大きな赤か火の立ちのぼった。
朝帰って来た主人にそんこつば話し、三井寺に話したところ和尚もびっくりしてすぐ坊さん達ば連んのうてお墓に参り供養した。
そりからぷっつり墓からは火の玉は出らんごなった。

篠原原稿


訳)

今から400年ほど前、久留米の殿様、小早川秀包にあんまりさからうものだから、邪魔者は殺せと、高良山の座主麟圭はだまし討ちにあったが、よほど無念だったのでしょう、殺された麟圭の墓から鬼火がでるという噂がたった。
その頃、三井寺の和尚は墓の上に生えていた松の木が枯れたものだから、切り倒してしまわれた。
ところがその夜、山侍の久保田の嫁さんが留守番をしていて、表で声がすると戸を開けてみたら、赤い法衣を着た坊さんが立っていて「なんで松を切倒したのか。あの木は大事な松だったのに、不届き千万」ととてもやかましく言う。
嫁は、主人が留守だと思って狐か狸が悪さをしているのだろうと、戸をビシャッと閉めて、すき間からじっと見ていたら、坊さんの姿は消えて、墓の所に大きな赤い火が立ち上った。
朝帰ってきた主人にそのことを話し、三井寺に話したところ和尚もビックリしてすぐ坊さん達を同行させてお墓に参り供養した。それからぷっつり墓からは火の玉が出ないようになった。


麟圭が討たれたのは天正19年(1591)5月13日の夜のことです。
毛利秀包の久留米城から逃げて、現在の西鉄久留米駅付近で討たれた麟圭たち主従8人を里人が葬った八つ墓は、今では寺町の医王寺に移されています。八つ墓

高良山茶屋「望郷亭」
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