高良山の怪事(御井)

今から270年ばっかり前の宝暦4年2月(1754年2月)になって高良山に不思議なこつの起った。
夜中になっと山ん上に真昼間んごつ何千何百ち言う提灯、松明のとぼって、木ち言う木にゃ白旗、赤旗ん何千何万ち立てられち、風に吹かれとる。そりゃ恐しかごつあった。
そして、耳の破るるごつぁる声ん響いち来る。
役人がいそいで山さん調べに登っと、全然何んも見つからんし聞えもせん。そげんか事(コツ)の10日間も続いた。
不思議ぢゃ不思議ぢゃち言よったところ、今度15日頃から各郡に10才にもならん百姓ん男ん子が、取りつかれたごつ
「俺は高良玉垂宮の乗り移っらっしゃたつぞ。この3月に入ったなら久留米ん領民な全部力合わせち立上がれ。立上がってここんとこ何年も無茶な税金ば取上げとる郡の役人たちば踏み潰し、殿様ん力ば笠に着て、我々の上前ばはねち金持ちなっとる商人どんばやっつけろ。15日もしたなら昔んごつ平和になって騒動は収まる。殿様ともあろうもんが、我が遊ぶとこ作っとに、こん神聖な山ん大木ばどんどん切倒してしまうちゃなっとらん。上が上ぢゃから下が悪かこつするのぢゃ。こりから世の中を正すため百姓は全部立ち上がって戦え。俺の言うこつがしらごつかどうか、よーと見ろ」ち大声で言うて、側にあった50人ででん動かしきらんごたる大きな石ば軽々持上げ押し上げポーンち投げ上げた。そして2丈ぐれピーンと飛び上がって、がばっち倒れち気失うてしもた。こりば見た者なもちろん、この話しば聞いた者も、どうもこりゃ何か起こるばいち心配したが、一村だけに起こったこっぢゃ無うして各村々にこげなこつぁあった。

こん神懸かり、高良山の怪事あってからすぐあん有名な宝暦一揆ん起こった。

南築国民騒動実録


訳)

今から270年ほど前、宝暦4年2月(1754年2月)になって高良山に不思議なことが起った。
夜中になると山の上に真っ昼間のように何千何百という提灯や松明がともって、木という木には白旗や赤旗が何千何万と立てられて風に吹かれている。それは恐ろしかった。
それに耳が破れるほどに大きな声が響いてくる。役人が急いで山に登っても、全然何も見えないし、聞こえない。

そんなことが10日も続き、不思議だ不思議だと言っていたら、今度は15日頃から各郡に、10歳にもならない百姓の男の子が、取り憑かれたように
「俺は高良玉垂宮にに乗り移られた。この3月になったら久留米の領民は全部、力を合わせて立上がれ、立上がってこのところ何年も無茶な税金を取り上げている郡の役人達を踏み潰し、殿様の力を笠に着て、我々の上前をはねて金持ちになっている商人たちをやっつけろ。15日もしたら昔のように平和になって騒動は収まる。 殿様ともあろうものが、自分が遊ぶところを作るのに、この神聖な山の大木をどんどん切倒してしまうとはなっていない。上が上だから下が悪いことをするのだ。 これから世の中を正すために百姓は全部立上がって戦え。俺の言うことが嘘かどうか、よく見ろ」
と大声でいって、そばにあった50人ででも動かせないほどの大きな石を軽々と持ち上げてポーンと投げ上げた。そして2丈(≒6.6m))ほどピーンと飛び上がって、がばっと倒れて気を失ってしまった。 これを見た者はもちろん、この話を聞いた者も、どうもこれは何かが起るぞと心配したが、一村だけに起ったことではなくて各村々にこんなことがあった。

この神懸かり、高良山の怪事があってからすぐ、あの有名な宝暦一揆が起った。

高良山茶屋「望郷亭」
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